外傷外科学4-5.腹部外傷

医学

腹部診察は3次元的な理解が必要な部位なので,苦手とする人も多いかもしれない.しかし,血管や実質臓器が豊富な部位なので,出血しやすく見逃すと致命的である.一方で腹部所見がはっきりしないことも多く,陰性所見に惑わされがちだ.気をつけて診察すべきポイントも押さえておこう.

まとめノート

解説

まず腹部外傷がどのように臓器に損傷を与えるか考えよう.128ページのシェーマを参照していただきたい.外力が生じると,椎体との間に挟まれた臓器に損傷が生じる.これが実質臓器である場合,出血を来すし,管腔臓器であれば臓器損傷に伴う腹膜炎を来す.
では,Primary Surveyから見ていこう.Primary SurveyではCの異常を拾い上げたい.出血による循環動態の不安定化を見逃さないようにしよう.まず,腹腔内出血を見つけるためにFASTを行う.それと並行して輸液を行おう.輸液に反応しない場合(すなわち循環動態が改善されない場合),早期の輸血を行おう.「救急医学2-22.消化管出血」で解説するが,輸液量はなるべく制限し,早期に輸血に切り替えた方が生命予後が良いという報告がある.特に,外傷の場合は最初の6時間以内で3Lに留めるという具体的な数値目標もある.なお同項目でも解説しているが,出血時のVital Signの解釈は呼吸数,意識レベル,Shock Indexで行う.決して,血圧やHbで評価しようとしてはいけない.急性期には意味のない評価項目だ.血圧低下は体液が30%喪失されてから下がり始めるので,血圧低下は末期レベルだと認識しよう.
話を戻す.早期の輸血を行いつつ,開腹止血術に移行する.なお,もし初期輸液に反応がある場合でも手術,IVR,輸血が出来る体制は整えておこう.
ABCDを安定させたら,Secondary Surveyに移る.受傷機転は必ず聴いておきたい.というのも,受傷機転からある程度損傷臓器が推定されるからだ.
身体診察では腹部,背部,会陰部,臀部まで観察する.特に,背部,会陰部,臀部は見落とされがちな所見なので必ず確認すること!外傷患者の診察では系統的に頭のてっぺんからつま先まで観察することを心がけよう.
腹部の診察は難しい.腹部膨隆がなくても出血していることはあるし,受傷早期は腸雑音が消失・減弱していることは少ない.必ずしも血液や膵損傷で腹膜刺激症状を呈さないこともある.いずれも陰性症状だからと言って,安易に否定してはいけない.経時的に何度も評価を行う.
繰り返しFASTを行い,腹腔内出血が確実に確認できない場合はCT撮影を行う(もちろんVital Signが安定していることが前提である).画像所見についてはまとめノートに一例を載せているのでそれを確認して貰いたい.
腹部外傷における治療方針は最終的に手術,TAE,非手術療法に分けられる.JATECアルゴリズムに則って治療方針を決める.
ここでDamage Control Surgery(DCS)の概念を習得しておこう.循環動態が安定していない症例で開腹手術に踏み切ると,止血に難渋して死亡に至ることがある.手術を行うにあたり,一期的な手術ではなく,止血と汚染回避を行い,集中治療で全身状態の安定化を図る.状態が安定化されてから,二期的に根本治療を行う.これがDCSである.特に肝損傷では採用される戦略だ.DCSの判断基準は外傷死の三徴のうち1〜2項目の出現を認めた場合に行う.
非手術療法を行う場合の適応を記しておいたが,基本的にハードルが高い.早急に外傷を見れる病院への転送も選択の一つである.


みるすきー

参考文献
「JATEC第6版」

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