外傷外科学4-6.骨盤外傷

医学

骨盤外傷は骨盤内に大血管や静脈叢があることから致命的な大出血を来す可能性が高く,緊急性が高い.また骨盤骨折による機能障害も無視できない.患者の社会復帰のために可及的速やかに対応しよう.

まとめノート

解説

骨盤の解剖から確認していこう.骨盤骨折は骨盤輪骨折と寛骨臼骨折に分けられて,前者は出血性ショックを,後者は股関節の機能障害を来す.骨盤輪内には外腸骨動脈や内腸骨動脈,仙骨静脈叢があり,血管が豊富である.したがって,骨折時は大出血を来しやすい.一方,その周囲は坐骨神経や閉鎖神経が走行しており,下肢の機能障害や膀胱直腸障害を合併することもある.
骨盤骨折は安定型,部分不安定型,完全不安定型骨折の3種類に分けられる.「不安定型」というのは輪状構造が完全に破綻している状態を指す用語だ.
それでは実際の診療から見ていこう.Primary Surveyでは早期診断と止血,骨盤輪の安定を目指す.意外に思うかもしれないが,診断は単純X線写真正面像1枚で行う.循環に異常を認める場合,意識障害などで正確に身体所見がとれない場合,高リスク受傷機転が想定される場合に,必ず撮影しよう.
止血は骨盤輪の安定化と血管の止血に分けられる.それぞれ解説する.
骨盤輪の安定化だが,これは簡易固定法,創外固定に分けられる.簡易固定法ではシーツラッピング(全周生に緊縛して骨盤輪を安定化させる方法)やサムスリングⅡ®を用いる方法がある.いずれも数分以内に行えて簡便だ.ひとつ注意しておきたいのは,長時間束縛しておくと褥瘡や軟部組織損傷のリスクになる.最小限度の使用に留めて,確実な止血法に移行したい.
創外固定は見たことある方もいらっしゃるかもしれない.体外からピンを刺入して,フレームを組んで骨盤輪を整復固定する方法だ.骨折面同士を合わせることで出血を抑制し,止血が得られるとされている.
損傷血管に対するアプローチは3通りある.まずTAEだ.動脈生出血の85〜100%を止血できるとされている.2番目は骨盤パッキングという方法だ.聞き慣れないかもしれないが,下腹部正中切開から腹膜外経由で後腹膜腔に達し,仙腸骨関節部から前方にガーゼやタオルを詰めて圧迫止血する方法だ.パッキングしても循環が安定しない場合はTAEに移行する.最後はREBOAだ.大腿動脈から経皮的に挿入したバルーンカテーテルを膨らますことで出血を一時的に抑制できる.止血手段の基本はTAEと思っておけば良い.
Secondary Surveyでは骨盤部の診察を行う.その際,会陰部もしっかり観察することが重要だ.外傷外科学では何度も言及しているが,会陰部や背面,臀部は見落とされやすい箇所だ.しっかり観察できるようになりたい.CTはX線撮影で骨折が明らか,または疑わしい場合,諸臓器の検査を行いたい場合に撮影する.
根本的治療は記載の通りである.合併症として気をつけたいのは,生殖器損傷,直腸損傷だろう.いずれも患者心情や今後の社会復帰に重要であるし,直腸損傷は敗血症性ショックに至る可能性もある.とにかく繰り返しになるが,会陰部や臀部の診察は重要である.くれぐれも注意されたい.


みるすきー

参考文献
「JATEC第6版」

タイトルとURLをコピーしました