持続可能な救急医療の提供は可能か?

日々の記録

はじめに

この記事では,持続可能な救急医療の提供は可能かを考えます.まず私のスペックを明かさないと議論(考察)として不平等なので,明かします.

年齢:20代後半
性別:男性
職業:初期研修医
病院:ややハイパー傾向
志望:救急科,放射線科(IVRと読影に興味あり),外傷外科,集中治療

志望欄の放射線科以降はサブスペ的な感じです.それでは,考察のきっかけとなった話題から紹介します.

精神科と救急科の違いって何?

私の弱小Twitterアカウントでこんなにいいねをいただいたのが初めてだったので,びっくりしました.その反響の大きさや皆さんの反応を見て,なぜ救急科志望者が途中で志望を変えてしまうのか,またその先の救急医療の可能性について考えたいと思います.

救急科志望の現実

救急科志望者はいずれも熱血で正義感にあふれ,生死の境をさまよう患者を救命したいという意欲にあふれた人が多いと思います.学生時代,そういう発言を口にし,救急への意欲を燃やしながら同期たちは全国へ羽ばたいていきました.しかし,後期研修が近づいてきたこの時期に友人たちの近況を聞くと,救急科へ行く人が少ないのです.これはなぜなのか.いくつか理由を考えました.どれも主観の強い考えですのでご了承ください.

(1)仕事として捉えていなかった
学生実習ではあくまで”見学者”として上級医の仕事を見ます.しかし,いざ自分が働く段になると,現実が見えてきます.それはそうですよね.だって実習は9時〜17時までですが,仕事はそれ以上拘束されます.夜勤や当直など変則的な勤務もあります.したがって,現実を実感し,一生の仕事にするのは無理だと考えて諦めたという説です.しかし,これはどの診療科志望でも言えることなので,可能性としては低いかなと思います.

(2)器用貧乏
救急科は幅広く診察する診療科です.専門性という観点では薄い診療科でしょう.したがって,バイト(外勤)は夜間当直や他院の救急外来の担当くらいになります.単価の低いバイトが多いです.一方,専門性の高い診療科のバイトは単価が高く,需要もあります.その観点から,救急科は選ばれないという考えです.

(3)ダブルボードまでの道のりの長さ
上記の専門性に付随する話ですが,救急科ではダブルボード(専門医を2つ持つ)を推奨している医局・病院もあります.しかし,専門医1つ取るのに2〜3年かかります.2つ取るとなると,5〜6年,場合によっては7年以上かかる可能性もあります.そこまで仕事に人生を捧げられるか,と言う観点で救急科を選ばないということも考えられます.

(4)ルーチンの毎日
これは私の先輩救急医が死んだ顔をしながら話していたことです.ある夜の救急外来.患者を捌きながら電子カルテの前に座っていた先輩が浮かない顔をしていました.理由を尋ねると「救急って作業なんだよ.だからつまらないんだよな.その点,集中治療は頭使うから面白いんだよな」と話しました.たしかに,最適な初療の手順はある程度決められています.毎日毎時間同じことをしていたら,そういう陰性感情も出てくるのかもしれません.

(5)救急系医療ドラマのとばっちり
これは私のフォロワーさんからご指摘いただいたことなのですが,医療ドラマの綺麗な一面ばかりに憧れて,しかし現実を知って落胆するというコースです.初療室には可愛いガッキーはいないし,イケメンの山Pもいません.ゴリラ,むさ苦しい救急医が待ち構えているのです(言い過ぎでしたかね汗).どのみち,「自分かっこいい!俺のスキルで患者は救われた!」みたいなことは実際の救急医療では少ないでしょう.そこで救急科を選択肢から外してしまう・・・可能性はあると思います.

(6)最近の若手の価値観の違い
これが大きいかもしれません.どの業界でもQOL(Quality of Life)を求め,ワークライフバランスが叫ばれ,医療業界でもいよいよ働き方改革が始まります.楽してお金を稼ぎたいとまでは言いませんが,ある程度プライベートも大事にしたいと考えている人も多いと思います.そういう点で,救急科が選ばれにくい(長時間労働,自己犠牲のイメージが未だに強いと思います)と考えます.

以上,救急科が選ばれない理由を主観で述べてきました.ここで興味深いツイートを見かけたので,そちらをご紹介します.

救急医のアイデンティティー

救急医としてTwitterで発信されているドエンタ医先生のツイートです(ご本人の許可をいただいて掲載しております).「救急医なら誰もがやらなければならない仕事を楽しくするシステムを確立してから始めてダブルボードやサブスペ議論を始めるべきではないか。」とても重たい言葉に思いました.この”誰もがやらなければならない仕事”を面白くするという発想はとても重要だと感じます.社会の変化に合わせて医療のあり方・需要の変わります.そこに救急科志望者が適応できているのか.”繁忙なERを円滑に回すマネジメント能力、幅広い内科診断学・症候学の知識、寝たきり老人に対する社会資源調整を含めた病棟管理能力”は泥臭い仕事です.医療ドラマでは描かれない陰の仕事です.それが仕事の8割を占める救急科を受け入れられるか,が問題だと思います.
第13回ACS学会では,各地域の病院でACS(Acute Care Surgery)の維持が難しくなっているという論題もありました.車の安全技術が向上し,外傷患者が減り,診療機会が減る.それにより,新しい人員の補充が出来ずに苦労している.これは社会の変化に合わせて,救急医療が変化できていないからではないでしょうか?

社会変化に合わせた救急医療

これからますます高齢化が進行し,救急搬送される患者も重症度にかかわらず高齢者が多くなるでしょう.どちらかというと,外傷よりは内科管理の方がメインになってくることになる・・・いわば総合診療科(総合内科)に近い立ち位置になることが考えられます.また一方で,数少ないとはいえ,外傷患者をみれる医師も必要です.この両立を目指した救急医療が今後10〜20年の課題になると考えます.
救急医を増やすためにも,この両立の難しさと魅力を伝えることが最重要だと思います.また社会の需要がある診療科なんだと言うことも同時に伝えた方が良いでしょう.コロナ禍や災害では常に救急医が最前線に立ってきました.この事実ほど勇気づけられるものはありません.医療という社会インフラの中でも骨格を担っている.そういうアピールは必要だと思います.そうして社会需要を理解した救急医を増やすことで,これから好循環を維持していけると考えます.

結語

最後になりましたが,私はまだ研修医なので,この考察も変わることでしょう.そのたびに更新していこうと思います.社会変化/需要を理解した救急医の養成,これも主軸にすることで救急医療の可能性はさらに追求できると思います.明るい未来を願って,私の考察はここまでにしようと思います.ありがとうございました.


みるすきー

タイトルとURLをコピーしました