日本外傷学会の振り返り

日々の記録

日本外傷学会とは

日本外傷学会とは外傷診療のあり方や症例報告をする学会です.JPTEC,JATEC,JETECに基づいて診療している医療従事者が一同に会して,外傷診療のあり方を議論する場でした.
今回,私は登壇こそしなかったものの,初参加させていただき症例報告や基礎研究,外傷診療の構造的問題について,色々とお話を聞く機会をいただきました.まず,主催者ならびに登壇された先生方,Staffの皆様お疲れ様でした.非常に質の高い学会であり,貴重な経験をさせていただきました.この場をお借りして御礼申し上げます.

外傷診療の症例

あまり個人情報に触れるところもあるので,ぼかしながら面白かった症例を振り返ります.

Case Study①
ホームから飛び降り多発外傷を来した症例にECMOを使って転記が改善した症例.
脳損傷,肺挫傷,股関節骨折,大腿骨骨折あり,ARDSに陥った.V-V ECMOでARDSが改善した.ARDSを来した原因はそもそもの外傷によるもの,大量の膠質液輸液,輸血が考えられる.第7病日にはリハビリ転院できた.

Case Study②
銃創.病着まで34分かかり,Vitalは安定していたが,数発撃たれた模様.FAST陰性だったが,全身冷汗著明.すぐCT撮影したところ,頸部皮下気腫,気胸,金属片を認め,緊急手術.右胸腔ドレーン挿入後,肝動脈塞栓術施行し,2回目の手術で脊椎手術(脊椎も銃撃されたらしい).3回目の手術は待機的に行い,胸腔鏡で肝表面にあった銃弾を摘出した.
皮膚から銃創を見ても,銃弾の通るルートはわかりにくく,CTは有用.また確実な止血とABCの安定化は重要な症例だった.

Case Study③
サーフィン中にフィンが身体に刺入した症例.いずれも手術で対応.サーフィンの外傷は軽症例が多いそうだが,たまに重症外傷も経験することがあるとのこと(海に近い病院からの症例報告でした).

教育講演〜爆傷について〜

意外だったのは鼓膜損傷は自然治癒することが多いということ.消化管損傷はAirの多い大腸が多い(第3〜5病日,14病日に多いらしい損傷).消化管損傷は繰り返し評価しましょう.
鼓膜損傷と肺損傷を比較して,鼓膜損傷から肺損傷を診断できる感度は50%,特異度86%,陽性的中率22%.したがって,鼓膜損傷の有無で肺損傷の有無は分からない.
眼外傷について,意外に思われるがむやみに目を開けてはならないとのこと.損傷がさらに進む.外傷部分を保護するときは紙コップで覆うこと.そしてすぐに眼科コンサルトする.

大量に傷病者が搬送されることが予想されるので,トリアージには外科医は使わない(=外科医を消費すると根本的治療をする人間が少なくなってしまう).また傷病者搬送において,重症者は遅れてやってくる傾向にあることも忘れてはならない.

基礎研究

いくつか話題がありましたが,私の脳みそで理解できた(?)話を取り上げます.
外傷患者でHIT抗体が上昇する,という研究.このHIT抗体は厄介で,ヘパリン投与すると血液が凝固してしまうと言う抗体.外傷患者ではこのHIT抗体が産生されやすく,ヘパリン使用時に障害になる可能性がある,という研究内容でした.

ここからが個人的な疑問なのですが,HIT抗体が出来たらどうすればいいんでしょうか?血漿交換とかすれば良いのかな・・・.重症外傷ではヘパリン使用する機会はありますし,フロアからの疑問でも上がっていたA lineを入れるときにヘパリン使いますから,そういうヘパリンやヘパリンフラッシュは大丈夫なのか.気になるところです.今後の研究報告に期待ですね.

若手医師から外傷学会へ言いたいこと

今学会の肝いり企画でした.外傷学会の会員数も減っているようで,その危機感から若手医師から考えや期待していること,不満などを吸い上げようという企画でした.これは研修医の私も気になっていた企画なので,聴講しました.
登壇された先生方の意見を羅列すると,
①外傷指導医が少ない
②診療におけるコマンダー(指導医)がいない
③誰が外傷診療の主導権を握るのか
④救急医が果たして止血と根本治療をできるのだろうか
⑤外傷専門医だけでなく,認定医も作るべき
⑥外傷センターの設立を
⑦人的ネットワークを作ろう
でした.

特に印象的だったのは⑥外傷センターの設立ですね.これは他のセッションでも外傷センターの設立は議論されていたようです.症例を集約することで,外傷医としての経験を確保できる,また主導権を誰が握るのかという問題も解決するのではないか,というものです.
しかし,この問題を大友康裕先生(現:災害医療センター病院長)とお話ししましたら,外傷センターの設立は難しいだろうということでした.「現在,外傷患者は減少傾向にあり,国として外傷診療に介入しなくても良いのではないかという見方をされる可能性がある.これが2003〜2004年頃だったら設立できたかもしれない.我々救急医や外科医が独力で中途半端に頑張った結果,外傷死が減ってしまった.因果な結果である」このようなお話をしてくださいました.
Twitterでもこの話題を挙げたところ,様々な上級医の先生方からフィードバックをいただきました.外傷は地域差があり,一律に外傷センターを設立するのは難しいのではないか.一方で外傷患者の症例経験を考えると,集約も必要ではないか.様々議論や反応をいただきました.

フロアから挙がった意見で面白かったのは,医師派遣をしようという意見.「外傷に習熟した医師を外傷患者が搬送された病院に派遣しよう」という意見でした.実際,京都の小児医療では医師派遣をしているようで,出来なくはなさそうな試みだと思いました.ハコを作る前に,人的ネットワークの構築をしよう,という戦略ですね.これなら,地域に合わせた外傷診療を構築できるのではないでしょうか?
今のところ現実的な案だと思いました.

私の意見としては,専門医機構や構造的問題の全貌を把握しているわけではないので,意見できることがあるとすればSNS活用したら?です.少なくとも,厚生労働省や専門医機構を動かすのが難しいのであれば,世論形成を頑張ることも重要です.世論の後押しをもらって,外傷診療のより良い未来を作り上げることも重要です.日本外傷学会やACS学会は公式TwitterやYouTubeを作って,外傷とは?外傷診療とは?を広報していくことも重要だと思います.国民あっての医療ですからね.ここは間違えてはいけないと思います.

最後に

今回は台風が近づいていることもあり1日しか参加できなかったですが,それでも十分な収穫がありました.特に外傷患者の経験が乏しい私にとって,外傷の症例報告を聞く機会は滅多にないですし,外傷学会や外科医,救急医の先生方のお考えを知ることが出来て良かったです.
来年も機会があれば参加しようと思います.


みるすきー

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