誰も教えてくれない患者対応

日々の記録

医師は社会人です

何を当たり前のことを・・・と言われそうですが,長らく閉鎖的な医学部内にいると忘れられがちなのは社会性です.医業は人あってこそ成り立つもの.コメディカルはもちろん,患者さんとのコミュニケーションも大事です.今日は患者さんとのコミュニケーションでうまくいかない場合の対応についてまとめてみました.

最初は「うるせぇ」から始まった

私の乏しい研修経験でも忘れられない患者さんは何人かいます.そのうちの一人をご紹介しましょう(もちろん個人情報に配慮してぼかします).その患者さんが入院したのはコロナ禍真っ最中のとき.病院はピリピリしていて,緊急入院患者は全例PCR&隔離するという対策を取っていました.その方は数日間呼吸困難感を自覚し,飛び込みで来院された方でした.当然入院するも,上記感染対策に則った対応がされました.隔離して初日,私が挨拶に行くと,「うるせぇ!俺はコロナじゃないんだよ!早く隔離を解除しろ!」とすごい剣幕でまくし立てました.あまりの覇気にびびった私は「す,すいませんっ」と病室を退散.すぐに病棟に戻り,指導医に会話のやりとりを報告しました.

先生がそれでも診なくてはいけない

指導医は「そうか.それはご苦労さんだったね.もう一度一緒に挨拶に行こうか」と優しく声をかけてくれました.それから病室に向かう足取りが重かったのを覚えています.
病室につくと,指導医が中に入り,声をかけました.
「●●さん,こんにちは.担当医の●●です.本日からよろしくお願いします」
患者さんは先ほど怒鳴ってボルテージダウンしたのか,今度は怒鳴らなかったものの不満顔です.
「俺はな,コロナじゃないんだ.こんな暗いところに隔離されちゃ,堪らねぇ.いつになったら出られるんだ!」
「隔離にご不満なんですね.病院の決まりで皆さん安全を守るための隔離なんです.ですが今の状況について,もう少しお気持ち聞かせていただけませんか?」
そうすると,患者さんは堰を切ったように話し始めました.コロナ禍での呼吸困難で不安だったこと,普通に入院できると思っていたのに隔離されて驚いたこと,事前に教えてくれてればビックリせずにすんだこと・・・.それから,間もなくして指導医が言いました.
「●●さんのお気持ちがよく分かりました.辛かったでしょう.PCRの結果が出て陰性なら隔離解除になります.早くて明後日には普通の病室になるでしょう」
そうすると患者さんは安心した顔をして「わかった.数日なら我慢できる.さっきは怒鳴って悪かった」とおっしゃいました.
病室を出てきて指導医が私に言いました.「先生,これからはああいう怒り出す患者さんや相性の合わない患者さんをたくさん診ることになる.それでも先生が診なくてはいけないんだよ.それが医師としての責務なんだ」
私は共感的態度のお手本をその場で直接見られた気持ちになりました.それと同時に,どんな患者さんにも真摯に向き合おうという気持ちが生まれました.

患者さんと上手に会話するコツ

経験は乏しいですが,私なりに実践している患者さんとのコミュニケーション術を紹介します.

(1)相手の気持ちを受け止めて,考えを拝聴する
先ほどの患者さんとの体験談で挙げたように,相手の気持ちを受け止めて考えを拝聴する.これだけで,怒っている患者さんや不満を感じられている患者さんの気持ちを理解し,解決策を提示することが出来ます.

(2)相手の生活背景を知る
これは飲酒歴や喫煙歴を聞く際に,私の恩師が実践していたテクニックです.例えば,アルコール酩酊状態で運ばれてきた患者さんに,どれくらい飲酒したか聞くときに,単刀直入に「何をどれだけ飲みましたか?」と聞いても,詰問口調に聞こえてしまい相手がなかなか答えてくれないことがあります.
そんなときは「酒のつまみは何にしましたか?」から聞いてみるのです.そうすると,患者さんは「酒のつまみはイカの塩辛だよ」と答えます.「あぁいいですね.私も好きですよ塩辛.ビールと日本酒によく合いますよね」「そうそう,そうなんだよ!」「今日も塩辛でビール飲んだんですか?」
こんな調子で,相手の飲酒歴を聞き出すのです.これは正直上手い手法だなと思いましたね.共感的態度を織り交ぜつつ,相手からさりげなく情報を聞き出す.上級者のやり方だと思います.
また,こうして聞き出した相手の嗜好や趣味は,日々の会話で役に立ちます.「信頼関係を築く雑談」で使えるネタので,是非とも把握しておくといいでしょう.また,こうした患者さんの生活を知っているのは,患者さんと長く接している看護師さんです.看護師さんから聞き出すのも一つの手ですよ.

(3)相手の持ち物を褒める
これも指導医が積極的に使っていた手法でした.自分の持ち物を褒められて嬉しくない人はいません.気分も良くなりますし,細かいところまで見てくれているんだな,と患者さんに印象づけられます.持ち物ネタから発展して,相手の趣味や嗜好を聞き出すことも出来ます.

(4)相手と目線の高さを合わせる
これは会話術とは少し違うかもしれませんが,ベッドで横になっている患者さんと話すときは,なるべく目線の高さを合わせるようにしましょう.上からのぞき込むような姿勢で話すと,圧迫感があります.威圧的な印象を与えることにもなりますので,なるべく目線の高さを合わせるといいですよ.

(5)相手の話をぶった切らない
これは難しいです.もうあと5分でカンファが始まるのに,患者さんの話が途切れない・・・.あるあるです.こういうときに,「私忙しいんで.じゃあこれで失礼します」などと言ったらおしまいです.
どうやって話を切るかというと,2通りあります.1つは,相手の言いたいことを先に言ってしまう.結構リスキーな方法ですが,相手の言いたいことをこちらが先に言って,共感することで話を途切れやすくする.もう1つは,「(時計をチラリと見て)お話の途中で失礼しますが,私これから行かなくてはいけない会議があるんです.お話が楽しくて大変残念ですが,また伺いますのでお話聞かせてください」と言う方法.まあこちらの方が穏便でしょう.私は後者を推薦します笑.前者の方法もやらないわけではないですが,相手を選びますね.なので,穏便な方法で話を切りましょう.

患者対応一つで周囲の信頼を勝ち取れる

患者対応一つで指導医やコメディカルからの信頼はぐっと増します.そうすると,仕事がしやすくなり,ますます信頼を得られやすくなります.好循環ですね.私も未だに修行の身だと痛感する日々を送っています.是非とも,皆さんも参考にしてみてください.ここまで読んでくださり,ありがとうございました.


みるすきー

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